令和5年11月7日 更新


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第49回日本手話学会大会

日程:令和5年12月9日(土)

場所:東京大学先端科学技術研究センター(東京都目黒区)

 

【基調講演】

「音声言語における文法とマルチモダリティ」

岡久太郎氏(静岡大学)〈音声日本語〉

要旨

 

【研究発表】

「日本手話のタイプ3音節非利き手に現れる手型音素」

 原 大介・三輪 誠(豊田工業大学) 〈音声日本語〉

 筆者らは、『日本語・手話辞典』(全日本聾唖連盟出版局,1997年)に掲載されている語を音節に分解し、音節を単位としてそこに含まれる手型、位置、動き等の音節構成要素をエクセルに登録したデータベースを作成している。これを使い、日本手話のタイプ3音節(左右の手型が異なり利き手のみが動く音節)に現れる非利き手の手型音素を調べた。その結果、タイプ3の非利き手に現れると考えられている7種類の無標手型(B, A, S, C, O, 5, 1)のうち、O手型音素と5手型音素は非利き手に現れない可能性が高いことが示唆された。

 

「日本手話における二音節単一形態素の強勢」

 浅田 裕子(昭和女子大学)・藤田 元(上智大学) 〈音声日本語〉

 日本手話・アメリカ手話・オランダ手話の二音節から成る単一形態素語(disyllabic monomorphemic words、以下、二音節語)は、手型や動きの種類によって異なる強勢パターンを示すという報告がある(乗松ら1998, Sandler & Lillo-Martin 2006, van der Kooji & Crasborn 2016等)。しかしながら、従来研究ではこれらのバリエーションの統一的分析がなされておらず、手話言語の音韻パラメータを考慮すると、二音節語にはまだ議論されていないタイプがある。本研究では、日本手話における二音節語の強勢パターンを網羅的に調査し、観察事実の記述的一般化を提案する。音韻表示と音声表示の区別に依拠する本提案の下、同一手型で同じ動きを繰り返すタイプの二音節語(例/方法/・/先生/)の強勢パターンには、音声表示レベルで異化(dissimilation)が関与していることが示唆される。

 

「コーパスによる「見る」を含意する日本手話の類義語の研究」

 平 英司・坊農 真弓・岡田 智裕( 国立情報学研究所)〈音声日本語〉

 本研究は、「見る」を含意する日本手話の類義語/見る(メ型)/及び/見る(V型)/を取り上げ、その意味の違いを分析する。結果、/見る(V型)/は、語源的に視線のメタファーを用いる表現であり、類像性の高い表現としても用いられている。/見る(V型)/は/見る(メ型)/に比して、より類像性が高いことがうかがえる。つまり、具体的に視線をコントロールできる/見る(V型)/は、意思をもって視線を投じるということから、対象物への意識が、/見る(メ型)/よりも高いと考えられる。

 

「日本手話言語の疑問詞・接続詞・助詞:意味論・語用論的アプローチによる分類手法から」

 川口 聖(国立民族学博物館)〈日本手話〉

 日本手話言語は音声・書記日本語の影響を常時的に受けているが、日本語とは全く違う自然言語である。その違いを明示化するためには、手法の一つとして、言語文法上の基準で分類した単語の種類、つまり品詞の分類のしかたがある。日本語文法においては、名詞、代名詞、動詞、形容詞、形容動詞、連体詞、副詞、接続詞、感動詞、助動詞、助詞などに分類されるが、そのなかから疑問詞と接続詞と助詞を注目して、手話の図像性などを着目しながら、意味論・語用論的アプローチによる分類手法を使って、日本語との違いを明示化する。

 

「東アフリカの手話の西アフリカの手話との異同:特にケニア手話とウガンダ手話に注目して」

 森 壮也(日本貿易振興機構アジア経済研究所(IDE-JETRO))〈日本手話〉

 日本ではアフリカ手話の研究の場合、西アフリカの手話、特にフランコ・アフリカ手話(LSFA)の紹介が積極的になされたおかげでこれについてはよく知られているが、東アフリカではどうだったのかということについては、あまり知られていない。本報告では、東アフリカで特にケニア手話(KSL)との関係が深いとされるウガンダ手話(UgSL)について、まずその歴史や背景が西アフリカとどのように異なっているのかについて既存研究とそれを補う現地インタビューについて明らかにした。その上で現地で2023年夏に実施したワークショップによるウガンダ手話と東アフリカ地域の手話、特にケニア手話との形式面での異同について調査した結果を予備的なものとして報告する。

 

「現代ラオス手話の語順 Part-2:今後のための予備的研究」

 池田 ますみ(NPO法人アジアの障害者活動を支援する会)〈日本手話〉

 前回(第48回日本手話学会)に引き続き現代ラオス手話の語順について考察していきたい。まず、現代ラオス手話は(古代ラオス手話が存在していたといわれているが、記録に残されてないため未だに解明できてない)隣国タイ手話から影響されたものと(Woodward 2010)、ラオスろう協会による新しい手話表現開発やろうコミュニティの中で生まれた独自手話表現の出現などが混交されている。前回の発表では基本的語順はSOVと述べたが、実際はSVO表現もみられる。一致動詞のある文や時間の順次に関わる文がSVO語順に影響されているように考えられる。今後も引き続き動詞の性格や目的語の種類による語順の変化の有無を調べていきたい。

 

「Deleuze=Guattari言語観と手話記号論の接続に関する予備的考察:手話構文と口真似の共起にみるMarkov連鎖と再領土化」

 末森 明夫(日本社会事業大学)〈手指日本語〉

 本稿は仏国の哲学者DeleuzeとGuattariが提示した言語観(Deleuze=Guattari言語観)にみる概念編制に手話構文(sign-language/depicting construction)と口真似(mouthing)の共起という事象を連関布置し、手話構文と口真似の共起は能記(signifiant)と所記(signifié)の換喩的連鎖と隠喩的翻訳を包摂するMarkov連鎖に該当することを明らかにした。併せて手話構文と口真似の表現と内容それぞれにみる相互介入と相互変容が並列的再領土化であるものと解釈した。このような言語哲学的接近法により、Deleuze=Guattari言語観と手話記号論の接続に関する予備的考察をおこない、学際領域たる手話学の拡充に資する。