2021年2月2日 更新


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日本手話学会第36回大会

日程:2010年10月30・31日

場所:慶應義塾大学日吉キャンパス

 

【研究発表】

手話言語基礎語彙比較対照資料の可視化:語彙近似値群の群解析

末森明夫

比較対照手話言語学の語彙統計論分野において蓄積された様々な手話言語間の基礎語彙近似値群の群解析を行い,手話言語系統類縁関係の可視化に関する予備考察を行った.すなわち語彙近似値群より言語距離行 列及び樹形図の作成並びに得られた樹形図群の比較を通して,手話言語基礎語彙近似値群の利用における知見及び課題の整理を行った.

 

「中間型手話は日本手話と日本語対応手話の「中間」なのか? (予稿なし)

原 大介・黒坂美智代

 

子どものコーダとろう親のコミュニケーション:手話と日本語のバイモダル・バイリンガリズムに着目して(予稿なし)

澁谷智子

 

ELANを用いた手話教材の開発

南田政浩(手話教師センター)・松岡和美(慶應義塾大学)・矢野羽衣子(日本ろう福音協会)

 

日本手話は危機言語化しているか

岡典栄(一橋大学大学院言語社会研究科博士課程)

ろう児の約90%が聞こえる親から生まれることから,日本手話は母語として自然に継承されにくい言語である.また,書き言葉(文字)がないことや教授言語として聾学校で使われていないこと,教科としての手話科がないことなど,脆弱化しやすい状況にある.危機言語に関するユネスコ特別委員会の報告(2003)を参照しつつ,日本手話の現状を見直す.

 

日本手話のアスペクト:状況/視点/局面アスペクトとその相互作用

市田泰弘(国立障害者リハビリテーションセンター)・赤堀仁美(明晴学園)

日本手話において,状況アスペクト,視点アスペクト,局面アスペクトがどのようにマークされ,各アスペクト間にどのような相互作用がみられるかを論じる.さらにアスペクトをめぐる類似表現を比較することにより,それぞれのマーカーがどのような意味を内包しているかを探る.

 

1950−1960年代の手話データベース構築

大杉豊(筑波技術大学)・神田和幸(中京大学)

 

手話通訳者のスキルサイエンスと対人援助サービスへの応用可能性に関する考察

田中沙織(MID)・中園薫(NTT未来ねっと研究所)

The goal of this paper is to introduce a examination called Skill-Prosody and to demonstrate that it can be an indicator for the other general skills of interpreters. For this purpose, we conducted two experiments: one is to study the relationship between the interpreter’s experiences and the performance score on Skill-Prosody(Experiment-1), and the other is to investigate the specific skill that can be estimated by Skill-Prosody(Experiment-2). Finally we end this paper with the discussion about the possible application for the other interpersonal support skill such as the medical examination skill required to doctors.

 

ろう児の第一言語としての日本手話理解力の評価:日本手話の理解力を評価するために明晴学園で開発した動画による評価方法とその実施

明晴学園では,ろう児の第一言語としての日本手話の理解力を評価するためにパソコンを利用したゲーム感覚の評価法を開発した.問題は全部で50問あり,語彙,CL(名詞及び動詞),人称を表す指差し,NMS(副詞,従属節を導くうなずき),手話語彙につく独特の口型および対話形式で正しいやりとりを選ばせる等の課題が含まれている.

小学3年生から中学1年生までの18人を対象とした評価の結果を報告する.

 

手話語彙の形態論的分析

神田和幸・木村勉

手話辞典搭載語彙約2千語について,形態素結合を分析し,傾向を調べた.手話の複合語は逐次結合と同時結合及び両者の融合があり,鞄型結合もあるため,分類は音声言語より複雑になる.語形成の種類の統計分析し,一部の語について派生分布,意味分析をした.

 

日本手話における口型の予備的研究

松岡和美・南田政浩・矢野羽衣子

 

日本手話とリテラシー:「明晴商店街」の活動から見えたこと

榧陽子

明晴学園は,日本手話と日本語によるバイリンガルろう教育の学校として2008年4月に開校した.第一言語として日本手話の能力を高めることに重点をおき,それによって第二言語として日本語の能力を伸ばすことを目指している.そのようなバイリンガル教育の環境の中で,「明晴商店街」は,2008年12月から1年4ヶ月以上にわたって,明晴学園の小学部廊下で生まれ,郵便局,銀行,商店,警察など,次々と発展・変遷していった,1つの教育的活動である.それは子どもたちの自発的な活動によって作られたものであり,子供達のさまざまなリテラシーが発揮されていた.それについて考察し,報告する.

 

イタリアにおけるバイリンガリズム:研究序説

小谷眞男(お茶の水女子大学)

イタリアのいくつかの学校のろう児・聴児混合クラスでは,聴児たちがサイン言語をマスターし,クラスの中ではサイン言語と音声言語のバイリンガル状態となっている.見学者にはどの子が聴児でどの子がろう児なのか,一見しただけではまったく判別がつかない.今回の報告では,このようなイタリアでのバイリンガル教育実践の試みを紹介し,国際比較の観点からそのインプリケーションについて考察する.

 

日本手話における埋め込み構造の予備的研究

内堀朝子(日本大学)・松岡和美(慶應義塾大学)・南田政浩(日本ろう福音教会)・矢野羽衣子(日本ろう福音教会)

人間言語の本質的特徴には「回帰性」と「階層性」があり,これらは統語的な埋め込み構造で観察されることが知られている.本研究は,日本手話において,直接引用文と統語的埋め込み文とで,手話表現に違いがあることを報告し,この違いにより日本手話において統語的埋め込み構造が存在することが裏付けられると指摘する.この観察は,日本手話が人間言語の一つであるかどうかを考える上で,基本的かつ重要な意味があると言えよう.

 

ケニア手話の言語構造分析序論

森壮也(JETROアジア経済研究所)・宮本律子(秋田大学)・ニクソン・カキリ(ケニアろう協会)

ケニアでは従来,同国で公用語とされているスワヒリ語によるKSL(ケニア手話)記述があったが,語彙が中心であった.90年代にはろう学校での教育言語である英語による記述も始まった.2000年代以降,米国系機関によるKSLテキストも発行され,初歩的な言語構造の分析も出てきた.これら従来の研究での文法記述を現在のKSLの話者との共同作業で見直すと共に,ろう者を主体とした研究チームの育成が図られている.このプロジェクト概要と共に得られた知見の一部を紹介する.