2021年2月2日 更新


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日本手話学会第23回大会

日程:1997年7月5・6日

場所:沖縄県女性総合センター

 

【研究発表】

(日本)手話とアメリカ手話(ASL)の音韻的差異の例とそこからの理論的示唆

森壮也(アジア経済研究所)

発表者は昨年の本学会報告において近年の手話音韻論の分析枠組みの大きな変化をこれまでの日本における手話研究を振り返りながら,簡潔にまとめ,そうした新しい流れの中で特に音節構造などにも注目した非線形な音韻論が今後の日本手話の分析においても意味を持つことを示唆した.そして日本手話の音韻規則を明らかにしていくための方法論として,ASLネィティブ・サイナーの日本手話産出の分析という方法がこの枠組みを背景にして必須のものとなることを明らかにした.本発表では,この研究が実際に行われた結果,出てきたいくつかのエラーのパターンの分析とそこからの理論的示唆について論じたものである.エラー・パターンの数は,全部で8種類であった.このパターンを見てみた結果,従来の手話音韻論では見えにくいのにも関わらず,重要な違いとして手話とASLでリズムをもたらす構造の違いがあると思われること,また音素の中の素性にも注目すべきことが明らかとなった.また音素概念についてもASLと手話間での違いを説明できるようなものでなければならないだろうと思われる.

 

韓国手話と日本の手話の類似性について(その1)

竹内幸恵(和光大学)

現在の韓国の手話と日本の手話の双方の手話単語には類似性がある.大日本帝国が朝鮮総督府を持って朝鮮半島を統治していた時代の日本では,手話を用いたろう教育が行われていた.そして,当時の朝鮮総督府が日本のろう教育で用いていた手話を朝鮮総督府済生院盲啞部において朝鮮のろう教育でも使用した.このことが原因で韓日双方の手話単語に類似性が発生したことを,資料に基づいて明らかにした.

 

非利き手の動きと優位性条件

原大介(シカゴ大学)

これまでの研究で,両手を使って表される手話には様々な制約が課せられていることがわかっている.日本手話には両手の手型が異なりかつ両手が動くというバッチソンの条件では説明のつかない手話が多く存在する.今回の発表の目的は,近年,手話言語研究で注目を集めているソノリティー(sonority)の概念を用いて,これら例外的な手話の非利き手の動きには,韻律レベルにおいて依然として厳しい制約がかかっていることを示すことにある.

 

手話ラベリングの提案と実例

神田和幸(中京大学)・長島祐二(工学院大学)・市川熹(千葉大学)・寺内美奈(職業能力開発大学校)

手話工学研究会「手話電子化辞書ワーキンググループ」では手話の工学的研究の基礎となる手話のラベリングについて研究してきた.そのラベリングシステムをサインデックス(Signdex)と命名し,表記システムについてはすでに発表してきた.この小講演では表記システムの概要説明とそのシステムによる実際の表記,およびその実例として第1版(Signdex V.1)の作業過程,そしてその成果をビデオにして掲示する.

 

手話ディスコースの構造:インデックス的マーカーの相互作用の分析

茂流岸マイク(M.W.Morgan)(国際大学・新潟大学・長岡技術科学大学)

本原稿ではディスコース分析の基礎となる基本的な概念を紹介する.それから記号体系とした手話談話分析のためにインデックス的マーカーの重要性を述べる.インデックス的マーカーの定義は手話談話における「物語」空間(Narrative Space)の一部分に指示し,談話に機能的意味がある動作(例えば,指差し,視線,顔向き,上体向きなど)とする.最後に,ズービンとヒューイット(Zubin & Hweitt)の直示中央(Deictic Center)モデルを紹介して,手話談話の例を1つあげて,このモデルによって分析する.

 

手話における名詞編入

原大介(シカゴ大学)

名詞編入現象とはどのような現象なのかをMithun(1984)の類型に従って概観した後,日本手話にも名詞編入現象が存在することを示すことが今回の目的である.

 

日本手話における最小語制約と動きの挿入

原大介(シカゴ大学)

日本手話には,単独で現れる場合には「動き」を伴うが,複合語に参加する場合には「動き」を伴わない語が存在する.この事実は,これらの語が基底形で「動き」の指定を持たず,単独で現れる場合には,音節の適格条件を満たすために不履行規則により「動き」が挿入されていると考えることにより説明できる.

 

日本手話における視線

市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)

手話言語を構成する要素のひとつである視線について,日本手話の発話コーパスから用例を収集し,その果たす役割について,網羅的に検討し,その分析を試みる.

 

日本手話の疑問文における非手指動作

市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)

手話言語の疑問文は,日手指動作によって標示されることが指摘されてきた.本論では,日本手話のYES−NO疑問文とWH疑問文について,疑問文を構成する各要素のうち,疑問文を作るのに不可欠な要素は何か,各要素間の関係はどのようなものかということについて論じる.

 

地域名(/大分/)の語彙化についての考察

宮本一郎(D PRO)

都道府県市町村や地区等の地域名の表現は,(社)全日ろうあ連盟発行『わたしたちの手話』をはじめ,各団体に至るまで,様々な刊行物で紹介されている.各々の表現は,民間伝承や,地域の象徴的存在から由来されたものであれば,出身者の第一印象等なら由来されたといった面白いエピソード・時代考察ができそうなものもある.それら表現のうちに,時代的整理的影響を受けて変化が発生されるという,時間的経過が観察できる表現が見い出されることができる.

/大分/表現の,利き手:「め」手型の,非利き手への接触位置について,大分県在住ろう者と域外のろう者との表現が違う.この差異点に着目し,調査を行ったので.報告する.

 

手話の初語を準備するもの −マニュアル・バブリングを中心に−

武居渡(筑波大学)

手話言語環境にある初語表出前後の乳児3名の手指運動を記述,分析した.その結果,特にろうの両親を持つ聾児において,手話による諸語が出現する以前に,無意味な手指の運動が頻繁に観測された.無意味な手の運動は,10ヶ月頃に最も頻繁に観測され,リズミカルな繰り返しが見られた.また,後に出現する諸語と音韻的な連続性が観察された.これらのことから,無意味な手指の運動は,喃語の役割を果たしており,喃語は音声モダリティ−に限定されたものではなく,もダリティーを超えた現象であると考えられた.

 

手話教育の実践報告

神田和幸・加藤勝由・城戸千代子(中京大学)

中京大学オープンカレッジでは入門クラス,実践クラス,応用クラスを開講しているが,これらのクラスは基礎的な語彙学習と文法学習に主眼があり,手話の実用能力開発には足りない. それを補うため1996年後期から 「手話サロン」という名称のろう者讚師による手話教室を別途開講した.手話サロンの目的はろう者との自然な交流による自然な手話習得であり,学習環境を工夫し,内容も斬新なものを考案している。 本論は現 在実施中の各クラスについて具体的に報告し,それぞれの目的と思想 その効果と反省を報告する. 

 

手話伝送システムS―TELにおける表情通信方式に関する基礎検討

黒田知宏(奈良先端科学技術大学院大学)

現在各家庭まで敷設されている電気通信ネットワークは音声の伝送を主目的としているため,これらから受ける恩恵には健聴者と聴覚言語障害者(以下、 ろう者) との間で大きな差が生じている.そこで,本研究では,各種 動作計測技術とVR技術を利用し、 遠隔地間での自然な聴障者同士のコミュニケーションを支援する,手話伝送システムS-TELを開発している.S-TELでは,映像情報ではなく骨格情報として手話を伝送し,発話者と全く同じ動作を行うアバター(avatar,化身) を CG を用いて次話者側の端末に提示することで,プライバシーの侵害を防ぎながら,手話の持つ感性情報を損なうことなく,手話の自然なコミュニケーションを可能にしている.本報告では,S-TELのアバター像に表情情報を付加する方式について検討を加える.

 

手話認識における顔の動作の検出法の検討

市川熹・高橋明・岡田陽一郎・堀内靖雄(千葉大学工学部情報工学科)

手話における言語情報としての顔の動作を検出する手法を検討した.提案する手法は,顔に人為的なマーク等はつけずに,ヒストグラムを用い上半身の動画像を動的計画法により追跡する方式である.まず顔領域,口,眉の上下端位匿がマーク付けされている標準パターンと入力顔画像の上下及び左右のヒストグラムを動的計画法により対応させる.そして,対応づけされた入力パターンを次の入力に対する標準パターンに用い,順次各部位の動きを追跡する.提案手法は,従来の画像処理をベースとした顔画像処理手法に比べ処理抵が少なく,パソコン程度で処理が可能である.

 

手話伝送の現状とこれから

竹内誠(日本手話学会)

音声の伝送に利用されている電話の利便性は,近年急速に増大している.それに対して手話を伝送する現状で可能な手段では,伝送する必要のある情報の量が電話と比べ圧倒的に多いこと,あるいは発話側の手話採取の困難さや機材が高価であること,さらに手話を伝送する手段の需要自体があまり期待できないことから,その開発・普及が遅々として進んでいない.このままでは基本的な情報通信の面において,聞こえる人と聞こえない人の間の利用できる情報の量の格差は開く一方である.現在研究されている手話の伝送手段には幾つかの種類がある.しかし,どの方法にも手話を伝送する方法として普及するには克服しなければならない点があり,現状では手話を伝送する方法が実用化されるに至っていない.本発表ではこれらのことについて概観する.また本発表では,手話を伝送するときに必要な情報の量は現在画像の伝送で手話を伝送しようと考えるときと比べて大幅に少ないことを示した.さらに,手話を伝送する方法を考案した場合に,その方法が本当に手話の伝送をする方式として妥当であるかをどのように評価 してやるかということについて考察を加えた.