2021年2月2日 更新
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日本手話学会第41回大会
2015年12月5日(土)・6日(日)
タワーホール船堀(東京都江戸川区)
【基調講演】
Linguistic Issues in Taiwan Sign Language
Jung-hsing CHANG (Professor of National Chung Cheng University, Graduate Institute of Linguistic)
【研究発表】
FSL は,どのようにASL と異なるか?:強調形にみる音韻の違いから見た考察
森 壮也(JETRO アジア経済研究所)
フィリピン手話(FSL)は,フィリピンのろう者が日常のコミュニケーションに用いている手指言語である。同国での公教育の開始が米国からの教員が主導して行われたという歴史的経緯,またその後の米国平和部隊(PC)の国際協力投入により,FSL にはアメリカ手話(ASL)の影響が強く見られ,時にはFSL とASL が同一視されることもあった。しかし,PDRC & PFD(2004)も論じているようにFSL とASL とは異なる言語である。このことは,同書でも語彙の違いを事例に説明しているが,主要語彙の手型が異なることもその後,確認されている。語彙論的にも各地域の手話変異の調査でASL とは大きく異なる語彙が多数存在することも明らかになっている。本研究では,これらを踏まえた上で、手話の強調形という観点から,両者がどのように異なるのかを明らかにした。
有契性の高い語・文の呼称についての提案
中山 慎一郎(日本手話研究所)
日本の聾者界において有契性の高い語は「CL」、「具体的表現」、文は「CL構文」、「CL述部」などの呼称が用いられてきた。それも、それらの語が普及してきたのはここ10数年のことである。前大会では、CLの定義の再確認および分類の整理を試みた。今回は、「CL」などの呼称が手話使用の実態に基づいた相応しいものであるかどうか検証を試み、新しい呼称を提案する。
超分節接辞的「中動態」非手指標識:操作類辞系動詞/壊す/の他動性交替および態・意味地図におけるcogito 的自己関与
末森明夫
日本手話の操作類辞系動詞[壊す]に非手指表出が呼応する用例の形態統語的ないし意味論的考察をおこない,[壊す]の態・意味地図を作成した.各用例における態およびcogito 的自己関与に基づく主体/客体認知を考察し,無標[壊す]は中動態に位置付けられ,中動態標識と認められる非手指表出が共起することにより,他動性交替を包含する態および意味の変化が生じる機構を明らかにした.また,非手指表出は一律に非手指標識と位置づけられるわけではなく,文脈に応じて非手指表出と非手指標識が動的に前景化されるものと考えられた.本稿における知見は日本手話の語学学習支援資料にも資するものと考えられる.
日本手話における空書:「~代」の語彙化に関する予備的考察
原千夏(NPO 法人手話教師センター)黒田栄光(NPO 法人手話教師センター)末森明夫
高齢の日本手話話者の談話や日本手話による演説体に散見される空書の用例を集輯し分析をおこなうことにより、日本手話語彙体系における空書の語彙化の可能性を明らかにした。しかしながら、派生接辞「~代」は高齢聾者においては空書で示される例が散見されるものの、壮年および青年層においては空書の手話単語あるいは指文字による代替が進んでいることがうかがわれた。
日本手話の数詞抱合における制約:Part Ⅱ
池田 ますみ(香港中文大学:手話言語学及びろう者研究センター)
日本手話における数詞抱合の研究で、抱合時の制約の可能性を探った。日本手話における数詞抱合には、数を表す手型と分類詞という2 つの形態素が関わっており、数を表す手型が分類詞の動きをたどることで表現される。この数詞抱合の産出には手型や動きからくる制約が見られる。また、両手と片手による制約の比較、肌タッチにおける数詞抱合の産出に生じる制約に焦点を当てる。
日本手話の関係節 再考:研究対象としての可能性を探る
遠藤栄太(香港中文大学)
関係節はこれまで、様々な言語学者によって幅広く研究が行われてきた。日本手話についてはあまり研究の対象とされておらず、言及している先行研究も少ない。Endo(2015)は引き出し課題等を用いて自然な日本手話の語りを収録し、関係節の分析を試みたところ、出現数は少ないものの、先行研究で報告されている2 種類の関係節(主要部前・主要部内在型)を確認できた。本研究では、聴者である筆者が同様の手法で撮影した別の手話データにおける関係節を分析し、研究対象としての関係節の可能性を探る。
日本手話の応答詞・文末詞に呼応する借用口型/いみ/
黒田栄(NPO 手話教師センタ)原千夏(NPO 手話教師センター)末森明夫
日本手話の自然談話に見られる借用口型/いみ/の用例の集輯分類をおこなうことにより、述べ立て文、疑問文、ないし問いかけ文における文末詞的用法に加えて、応答詞的用法もあることを明らかにした。また、文末詞的な意思応答的用法はreferential shift においても許容し得るものであることがうかがわれた。借用口型/いみ/は日本手話の文末詞ないし応答詞に呼応する形で再分析を経ることにより、複合語・語彙化および語義派生が生じている可能性がうかがわれた。
「わかる」同義語の分布:映画《名もなく貧しく美し》における談話分析
村山正昭(放送大学教養学部全科履修生)末森明夫
昭和時代中期に日本で用いられていた手話の位相をうかがう言語資料として映画《名もなく貧しく美しく》を取り上げ、/わかる/および同義語の手話単語の記述資料を作成し、言語学および社会言語学に立脚した分析をおこなうための基礎資料とした。/わかる/および同義語にみられる手型は指文字「て」と指文字「さ」の2 種類が見られ、手型の分布と表現者に相関性が見られたものの、語用論ないし社会言語学的に優位な規則を見出すには至らなかった。
日本手話 [少ない] 呼応非手指表出の意味地図:データ解析による非手指表出群における意味範疇の動態様相の可視化
末森明夫 小林京子(NPO 法人日本手話教師センター)
本稿では日本手話単語[少ない]に呼応する情意的非手指表出群を意味論的に分類し,データ解析ソフト「R」を用いて主成分分析,群分析,および多重対応分析をおこなうことにより,意味地図を作成し情意的非手指表出群の意味範疇の可視化をはかった.意味地図より,(1) 非手指表出群における意味範疇「驚き」「疑問」「不満」が共有含意されること,(2) 非手指表出群の成分は「目・眉」が第一成分,「手話口型」が第二成分となるものの,「手話口型」により「目・眉」の意味範疇の前景化ないし後景化が生じる傾向もあること,の2 点が窺われた.この意味地図は手話言語学習の支援に資するものと考えられる.
ろう者の政策参画における当事者性の反映に関する一考察:群馬県手話言語条例の「教育」をめぐる議論に着目して
二神麗子(群馬大学大学院教育学研究科障害児教育専攻)金澤貴之(群馬大学教育学部障害児教育講座)
群馬県手話言語条例制定過程において、当事者の「想い」がいかにして反映されたのかを検証するために、「群馬県手話言語条例(案)研究会」での配布資料を基に、教育に関する事項である第12 条の議論の推移を分析した。その結果、当事者の「想い」を反映させるためには、「根拠に基づく事実を提示」、「手話言語条例があくまでも「理念法」であること」、「執行部からの指摘を正面から反論するのではなく、一部受け入れた上で修正案を提示すること」といったストラテジーが用いられていたことが示唆された。