2021年2月2日 更新


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日本手話学会第20回大会

日程:1994年7月23・24日

場所:工学院大学・新宿校舎

 

【特別講演】

チンパンジーの認知発達とコミュニケーション

1976年からアイという名のチンパンジーを主要な対象として,チンパンジーとヒトの認知機能を比較する研究をおこなっている.その一方,1986年からは,西アフリカのギニアとコートジボワールで,野生チンパンジーの道具使用と文化にかんする野外調査を継続している.こうした研究から,チンパンジーの認知機能がきわめてヒトと似ていることがわかった.ただし傾きの知覚や顔認知など両者で異なる認知機能もある.認知機能を野生チンパンジーの道具使用から検討すると,こうした認知機能の発達には長期にわたる親子のきずなが重要なことなどもわかってきた.チンパンジーの認知発達とコミュニケーションを考えるために,比較認知科学という視点からおこなってきた従来の研究の概要を述べる.ヒトの認知機能がどのような進化的背景をもっているかを探るために,ヒトと最も近縁な種であるチンパンジーの認知機能をさまざな角度から検討してきた.ヒトとチンパンジーは約500万年前に分岐した最も近縁な関係にある.

 

【研究発表】

中間型手話より日本語に忠実な手話システムの開発

長谷川浩(筑波技術短期大学)・矢沢国光(足立聾学校)・田上隆司(作新学院女子短期大学)

手話はろう者を中心に用いられてきたが,中途失聴・難聴者も同じく聴覚障害をもち,視覚的コミュニケーション手段である手話の必要性は変わりない.しかし中途失聴・難聴者は日本語を基盤としているので,音声語との対応が低い場合は表現しにくく,読み取りにくく,また覚えにくい.そこで我々は5年前から中間型手話より更に日本語に忠実な手話システムの開発を行ってきた.その概要を表現法,品詞などに分類して報告する.

 

聴覚障害者のコミュニケーション手段の使用と福祉サービスの利用に関する実態調査

福田友美子(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所),上久保恵美子(早稲田大学大学院)

現在の日本社会における聴覚障害者のコミュニケーション手段の使用と福祉サービス利用に関して,先天性の重度の聴覚障害者の集団を対象にして,郵便によるアンケート調査を行った.得られた有効な回答1696通を対象にして分析したところ,次のことがわかった.(1)コミュニケーションの相手によって,異なったコミュニケーション手段を用いていた.(2)音声言語でのコミュニケーションが要求されている場面では,筆談を用いているものも多かった.(3)コミュニケーションの手段として,手話が最も有効であり,続いて指文字・読話・補聴器の順に有効性が高いという判断がなされた.(4)情報補償の手段として,手話だけでなく文字による保証への希望も同様に多かった.

 

日本手話の携帯構造

神田和幸(中京大学)・長嶋祐二(工学院大学)・中博一(聴力障害者情報文化センター)

日本手話単語の一般的形態構造について,1つの仮説を提案.N形態とV形態および動詞スロット,フィラという概念を創案して,一般的形態記述モデルを示した.

 

手話の言語発達評価について

小田候朗(国立特殊教育総合研究所)

我が国の聴覚障害児の言語発達評価に関する研究を概観し,その主要な観点を整理する.さらに近年のアメリカにおける手話の言語発達評価を紹介し,我が国での手話の言語発達評価研究の今後を展望する.

 

言語構造における日米手話の比較

土谷道子(日本ASL協会)

日本とアメリカの聾者が使用する手話には,それぞの国柄,すなわち文化の違いや生活習慣,歴史などの違いが見いだされる.しかし,日米の聾者はどちらも,コミュニケーションのチャンネルに資格を利用し,意味の伝達に身体を使うというコミュニケーション戦略を用いている.日米両国の手話表現や言語構造には,どのような共通性,またはどんな相違性がみられるかを考察する.

 

指さしの文法化家庭:日本語手話,修得,ホームサインの分析を通して

鳥越隆士(国立身体障害者リハビリテーションセンター学院)

 

日本手話の文末の指さしについて

市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)

日本手話の文末の指さし(pointing/indexing)は,接語(clitic)であり,他動詞構文において主語と一致する(鳥越,1991b: 市田,1994).本論では,接語は主語と一致するという見方が,一致同士の受動文,自動詞構文,無一致動詞の受動文,関節受動文,補文をとる構造など,他動詞構文以外のさまざまな構文についても有効であることを示した.また,鳥越(1991b)が主語以外の名詞句に一致するとした例についても再検討した.

 

新しい手話の音韻論的検討

木村晴美(国立身体障害者リハビリテーションセンター)

従来行われている新語の造語において,日本手話の音韻体系の存在が無視されていることを指摘する.また,語彙化する過程での音韻的変化を検討し,造語における写像性(iconicity)の役割を主張することに問題があることを指摘する.

 

サーフェイスモデルによる3D手話アニメーションの描写

藤森憲男・長嶋祐二・長嶋秀世(工学院大学)

近年,聴覚障害者の情報伝達手段の一つである手話への関心が高まり,手話の習得を志す健聴者も年々増加している.我々は,手話学習の補助や県庁舎と聴覚障害者間のコミュニケーションの円滑化を目的とした.パーソナルコンピュータによる手話電子化辞書システムの構築を目指している.本文では,システムにおける手話調動の表示部である従来の3D手話アニメーションシステムをさらに改良したのでその結果について報告する.

 

時系列データを用いた手話アニメーション生成方法の検討

崎山朝子・佐川浩彦・大平栄二・池田尚司・大木優(日立製作所中央研究所)

本研究の目的は,3次元コンピュータグラフィックス(3次元CG)を使い,読みやすい手話を簡単に生成することである.著者らは簡単な手話生成を実現するために,編集が楽な3次元CGを使う.また,読みやすい手話アニメーションを生成するために,データグローブを用いて手話の手動作データを収録する.本報告では初めに,データグローブを使う利点を分析する.次に,手話アニメーションの表示が小さい場合でも,手動作がはっきりわかるようにするために開発した,2重消点遠近法について述べる.

 

日本手話電子化辞書試作Ⅱ

神田和幸(中京大学)・中博一(聴力障害者情報文化センター)福田友美子(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)

日本手話電子化辞書をCD−ROMに搭載した試作品.日本語と手話を双方から引くことができ,確認用に手話単語の動画像が掲示される.音声的記述データをデータベース化し,形態情報,文法情報などがテキストとして掲示される.

 

教育用手話電子化辞書の試作

加藤雄二・内藤一郎・安東孝治(筑波技術短期大学)

手話は,聴覚障害者同士ばかりでなく,聴覚障害者と県庁舎のコミュニケーション手段であり,近年,学習する人も増えつつある.しかし,手話が視覚的な情報伝達手段であるために,これまでのイラストを利用した学習スタイルは,手話を学習するうえでは必ずしも効率的であるとは言えない.日本手話の学習を効率化するために情報処理の技術を応用した手話電子化辞書を試作し,辞書の検索方法や表示方法などを検討した.手話の掲示は,コンピュータで制御された動画像で行ない,日本語からの検索や手の形態からの検索などの機能を作成した.しかし,現システムは,実用にするためには,使い勝手や理解しやすさなど,まだ解決すべき問題点も多く,これについても報告する.

 

パソコンを使った手話検索システムの研究

竹村茂(筑波大附属聾学校)・平川美穂子(富士通)

現在の日本の手話の時点は,手話の日本語ラベルから手話の形を検索するシステムになっています.手話を手の形から検索して,その手話の意味や日本語ラベルを知るための辞書が必要です.しかしストーキーのように手話の形を厳密に記号化して,その記号によて手話の検索をしようとすると,まず手話の記号について熟達する必要が生じて,辞書の使い勝手がきわめて悪くなります.本研究は,指文字を理解している程度の初心者でも,手の形から手話を手軽に検索できる辞書を書籍及びパソコンのデータベースシステムとして考案してみたものです.

 

動的技術教育用手話データベースの試作

村上裕史・高橋秀知・清水豊(筑波技術短期大学)

聴覚障害者の主なコミュニケーションの方法である手話には,日常会話では豊富な表現方法を持っているが,専門教育で使用するような語彙は少ない.そこで,教官と学生が共通の表現をもち,教育を円滑にするために,データベースシステムが必要となった.従って,電子・情報工学関係の専門用語を,動画表示の可能なパソコン・システムを利用して,手話データベースを試作した.その試作品について報告する.

 

健聴者のための手話教育システム構築のための基礎検討

寺内美奈(職業能力開発大学校)・吉永喜美子(雙葉高等学校)・長嶋祐二(工学院大学)

近年,聴覚障害者の情報伝達手段の一つである手話への関心が高まり,手話の習得を志す健聴者も年々増加している.一般に手話を学習する方法としては,手話講習会や手話サークルへの参加,TV講座や手話の本の利用するなどがある.我々は手話を学習するための補助手段として,パーソナルコンピュータによる手話学習システムの構築を目指している.本報告では,手話学習システムを構築するにあたり,従来の手話の学習方法について調査し,本システムにおける学習目標を明確化する.また,手話を学習する上で重要である手話の調動を習得するための一機能として,以前我々が報告した液晶シャッターを用いる3D手話アニメーションを採用することについて検討する.

 

手話通訳システムにおける手動作認識方式の検討

佐川浩彦・大木優(日立製作所中央研究所)

聴覚障害者と健聴者のコミュニケーション支援を目的として,手話通訳システムの開発を進めている.本システムでは,手話の手動作をデータグローブという装置を用いて入力する.入力した手動作のパターンと,あらかじめシステムに登録してあるパターンを音声認識で一般的なDP照合を用いて認識を行う.単語数620語のパターンを用いた認識実験の結果,98.7%の認識率が得られ,本方式の有効性が確認できた.

 

手話表現の経時観察

川岸忍(堺市役所)(予稿なし)

 

日本手話における非手指動作の検証

赤木俊仁(日本手話学会会員)

 

対話型自然言語としての手話と音声

市川熹・橋戸忠久(千葉大学)

工学的立場から手話と音声とを比較検討することによって,手話を理解するシステム開発のための手がかりと,対話型の自然言語の構造を解明する手がかりと,を検索した.文の構造を決める付属語の省略や言い直しなどが多い音声を聞いても即座に理解出来き,また対話している二人の間の発話の交代が自然に行われたり,話しのポイントが簡単に聞き取れるのは抑揚の効果であると考える.対話型の自然言語である手言葉にも,同様の情報が存在するものと仮定し,その可能性を実験的に検討した.

 

日本手話における日本語借用と手話化現象:ムードの動き

棚田茂(NEC)

従来から言われて来た日本手話の談話の曖昧性を解消できると考え,手指動作だけでなく,非手指動作,口唇動作を分析した.日本手話に日本語借用があり,主に名詞,動詞の一部に用いられるとしたが,更なる手話分析の過程から導き出された日本語借用における助動詞,例えば「みたい」「らしい」などのムードについて述べる.これらの分析,仮説を基にして日本手話日本語翻訳システムを構築することを今後の課題とし,最終的には日本手話と日本語の文章の対照を行う双方向の翻訳技術の開拓を目標としている.

 

腕と手の解剖構造モデルによる手話動作のコンピュータ・シミュレーション

池原和子・安藤理子・比企静雄(早稲田大学人間科学部)