2021年2月2日 更新
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第46回日本手話学会大会
日程:2020年12月12日
場所:日本社会事業大学(文京キャンパス)(東京都文京区)
【基調講演】
国際教育・教養教育と手話研究:COILによる日米協働教育
斉藤くるみ(日本社会事業大学)
手話研究の学際性を教養教育から国際教育へと活かしていった教育プログラムについて紹介する。これは日本手話話者である学生の言語権・学習権を守り、豊な教養を基盤とし、国際的に活躍できるろう者(国内での多文化ソーシャルワーカー・教師等を含む)に育てるものである。この教育プログラムの中核を担うのが日本手話の存在である。学際領域としての手話研究は、多様な研究分野のつながり、すなわち学問のダイナミズムを実感させるのに理想的なテーマである。手話研究を活かした教養教育の実績と、それが国際教育へと昇華したプロセスを示す。
【シンポジウム】
国際教育・教養教育と手話研究:ギャローデット=社会事業大学協働授業の試み
日本社会事業大学教員学生有志・Gallaudet University 教員学生有志
本シンポジウムは、講演で述べた「日本手話」研究を基盤とする教養教育から国際教育への進化を、具体的に理解していただくために、日米をつなぎ、議論を進めていくものである。
【研究発表】
全国手話検定試験で学ぶ基本単語に関する一考察:親密度と出現頻度の観点から
長谷川 由美(近畿大学生物理工学部)
語学関連の検定試験では、その試験で使われる語彙を明確にしていないことが多いが、全国手話検定試験(以下、手話検定)は、各級の基本単語一覧(以下、単語一覧)をホームページや試験対策の標準テキストで公表している検定試験のひとつである。試験に単語の問題もあるため、多くの受験生が、この単語一覧を見ながら試験対策として単語学習しているはずだ。本調査では、公開されている5級から準1級までの単語一覧にある単語を出現頻度と親密度の2点から分析を行い、各級の基本単語の傾向や特徴を調べる。
Saussure学説にみる手話観の再解釈:le langage des sourds-muetsと sèmeにみる多数空間性と線条性
末森 明夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
Saussure の高弟 Bally と Sechehaye は、Saussure の講義に出席した学生たちの聴講ノート(=『聴講ノート』)を基に『一般言語学講義』(=『講義』)を編著した。その後『講義』は近代言語学や現代思想における礎石として定位されることになる。しかし Godel(1957)や Engler(1967)は『聴講ノート』と『講義』の校合をおこない、『講義』が『講義ノート』に忠実に編集されているわけではないことを明らかにした。さらに Bouquet et al.(2002)は1996年に発見された Saussure の自筆草稿の一部(=『自筆草稿』)を翻刻公開し、『自筆草稿』と『講義』の間に看過しがたい齟齬がみられることを明らかにした。それに伴い、昨今の Saussure 学説には『講義』を無謬化することなく、『聴講ノート』や『自筆草稿』に回帰し、 Saussure 自身が描いていた理論の再解釈および再構築をはかる潮流が生じている。なお『講義』には「聾唖 sourds-muets」が延べ語数 2 語みられる。昨今の Saussure 学説において「聾唖の言語 le langage des sourds-muets」はどのように連関布置され、手話言語学史にどのように定位され得るのであろうか。『講義』聾唖文脈Ⅰ:言語は観念を表はす記号の体系である。従つて書l’écriture、聾唖の指話法 l’alphabet des sourds-muets、象徴的儀式、作法、軍用信号、等と比較すべきものである。ただ、言語は是等の体系の中で最も重要なものなのである。『講義』聾唖文脈Ⅱ:記号が[時]に於て連続的でもあり[時]に於て変遷的である事は、一般記号学の一原理である。書体系écriture、聾唖の言語le langage des sourds-muets、等に於てもそれは証明し得る。近代手話言語学は Stokoe(1960)にみる言説を手話言語学史における嚆矢とし、20 世紀後期には大きな発展を遂げた。しかし「百科全書派や Wundt(1832–1920)にみる聾唖文脈と近代手話言語学の系譜」や「昨今の Saussure 学説と近代手話言語学の連関性」については十分な考察がはかられているとは言いがたい面が残る。本稿では『講義』 『聴講ノート』 『自筆草稿』にみる聾唖文脈の批判的考証を通して、Saussure 学説にみる手話観の再解釈をはかり、手話言語学史に資することを試みる。
日本手話言語における品詞の定義に関する一考察:ラネカーの認知文法的アプローチによる分類手法から
川口 聖(国立民族学博物館 外来研究員)
日本手話言語は書き言葉のない話し言葉である。そのため、手話単語の日本語表記による辞名、あるいはラベル、注解(Gloss)を参考に品詞分類して、日本手話言語の文法を分析する研究が目立っている。実際に、手話単語の意味と、その単語に対応する音声言語による辞名の意味が完全一致しないため、文法分析の誤差が大きくなる可能性が出ている。そこで、手話単語の図像性を着目して、ラネカーの認知文法的アプローチによる分類手法を使って、手話単語の構素(手の形、手の向き、手の位置、手の動き)に合わせて品詞分類するという、日本手話言語における品詞の定義を提案する。
/山/-/木/ 問題から日本手話のCLの文法を考える:日本手話のCLの統語的特性への足がかり
森 壮也(JETROアジア経済研究所(日本社会事業大学・早稲田大学・関西学院大学)
従来、CLについての手話の研究上の議論は主として分類に向けられており、それがどのように用いられているのかということについては、あまり正面から議論がなされてこなかった。こうした中、ある手話講師からの発言を契機として、手話の語もCLは自由に用いられるわけではなく、指差し等についていくつかの制約が課されることが改めて認識された。本報告では日本手話の/山/を取り上げ、その位置関係やそこへの指差しなどがどのように起きているのかについて今後の研究への足がかりをつかむ。