2021年2月2日 更新
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日本手話学会第43回大会
2017年12月2日(土)・3日(日)
タワーホール船堀(東京都江戸川区)
【基調講演】
手話(法)教育時代の手話を研究する為に:能動的志向性を堅持した、「テバナシ」への接近
岡本 洋(関東聾唖史研究会)
手話は学校語である。稿者は、手話(法)教育が普く漲っていた驚異的な時代に培われた言語が後に遭遇した矮小化等の消長を例証し、必ずしも内発的共有知とは成らない問題群を各個の当事者性も踏まえ先鋭にした(2014,2016)。片々と為らざるを得ない中で方策の一つ一つを端的に示し得た。統語の親和乃至融和の内向型偏差にも着目して論じ、形成過程に対する幾許かの影響を指摘して謙抑的であった大恩人の小西信八へ与えなければならない正当な評価を学際的に行った。調査研究を構成するべき要件を前稿に続いて定立·充足させて行き、その大切さを摘録させながら随所で直截に物語る一目瞭然の両史料を挙げ、逐次手説する事は可及的解明への橋頭堡建立を支える。
ウルビノ稿本『絵画の書』における聾唖態概念編制
高橋和夫(独立系研究者)末森明夫(特定国立研究開発法人産業技術総合研究所)
Leonardo da Vinci 著《絵画の書》には唖者と身振りに関する記述が散見される。本稿では選択機能体系言語学および翻訳論的視座に基づき、《絵画の書》に見られる聾唖態語彙・文脈を様々な言語の下に対照し、聾唖概念編制史への照射をおこなった。
日本におけるろう学校理容科の歴史と変遷:設置の経緯と開設後の動向ならびに卒業生たちによる実践
吉岡佳子(一橋大学)山本直弘(岡山県青鳥理容文化会)
日本のろう教育における理容科は80 年以上の長い歴史を有し、多くのろう理容師たちを社会に送り出してきた。本発表では、ろう学校における理容科設置に至る経緯を概観し、以後の変遷を追う。さらに、手話話者(=言語的少数者)として聴者(=言語的マジョリティ)である客と対峙する卒業生たちのコミュニケーション実践を、口話教育の効果の有無や範囲を念頭において検証する。また、ろう理容師たちが独自に結成している全国規模の団体「全国ろうあ理容連盟」について報告する。
公立聴覚特別支援学校の手話研修に技能評価が導入されない理由の分析
坂井肇(筑波技術大学大学院技術科学研究科)大杉豊(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)
教員を対象とする手話研修の実施状況に関して全国の公立聴覚特別支援学校(以下、聾学校)を対象に質問紙調査を実施した結果、回答のあった53 校の聾学校においては全ての学校で手話研修が実施されており、108 件のプログラムが報告された。これらのプログラムにおける教員の手話技能に関する評価の導入状況について見ると、12.04%のプログラムにおいて導入されている一方で、導入されていないものは87.04%にのぼることがわかった。評価をする必要性がないため評価を導入していないとするプログラムが過半数を占めるが、「適切な評価法がない」「評価基準が定まっていない」などの事情から評価を導入していない或いはできないプログラムも存在している。
「手話言語」の有意な音韻・情緒・文法的な媒体特性分析試論
吉澤昌三((一社)栃木県聴覚障害者協会)
手話は「音韻性・情緒性をも持つ形態性・動態性言語」。言語は、音声の大小、強弱、声音、長短、遅早、連続・非連続等で、持つ「意味と音種・質」が変化する。手話は、これらの他に発出と消失までの位置、形、大小、方向、速度、休止・繰り返し、表情・身振り併用等の要素から、形成・表象される視覚・動態(形象)性音韻つき言語。山の形での山の音韻と語義。
手話言語を視覚言語モデルでみる:日本手話と日本語対応手話(手指日本語)の再定義を提案する
川口聖(関西学院大学手話言語研究センター)
これまで日本における手話について、同時法手話、伝統的手話、シムコム、日本語対応手話、日本手話、中間手話、中間型手話、手指日本語など、様々な分類名が生じてきた。日本での音声言語においては、他国言語との言語接触に和製英語など、借用語としての日本語が生じてきたというだけで、手話と似たような分類名は生じていない。また、日本では二つの手話があるとか、日本の手話とは日本手話も日本語対応手話もまとめて一つとか、日本手話と日本語対応手話の間に中間手話があるなど、昭和43 年栃木聾学校が同時法の新しい手話を作り始めてから50 年近く経ちながら、音声言語において生じるはずがないような論争が続くほど、まことしやかに主張する人が今もなお多く目立っている。そこで、その論争の的になっている、日本手話と日本語対応手話それぞれの定義を検証するとともに、それらの再定義を提案する。
日本手話研究の課題:言語接触の問題を中心に(日本手話と書記日本語)
砂田 武志(日本国際手話通訳・ガイド協会 手話通訳学研究チーム)
手話言語学に関する研究は、多岐に数多くの発表や報告がなされている。これら公表された研究内容を精査してみると、音声言語学に依拠したものが多くみられ、必ずしも視覚的創造を尊重したものではないことがわかる。このことから、手話母語話者の立場から、従来の研究方法ではなく、そもそも日本手話の起源である視覚的創造を尊重した上で、日本手話を分析した。そして、本発表では、従来の音声言語学に依拠した研究から得られた結果は、日本手話を説明するには適さないことを指摘し、新たな概念を提案する。
文末の「いう」が表す習慣性について
黒田栄光(NPO 法人日本手話教師センター)高嶋由布子(東京学芸大学 日本学術振興会)原千夏(NPO 法人日本手話教師センター)
本発表では日本手話の文末に表れる「いう」が作る構文を分析し、「[NP1][NP2]いう」という形式で「NP1 はNP2である」というコピュラを表す用法以外に、「[[NP]i [VP]] [PTi(NP)いうPTi]」で、「NP は(いつも)VP スル」という事態の習慣性・一般性を表す用法があることを示す。日本手話は、動詞の活用などで義務的にテンスが指定されないため、事態を表す裸の文では、いつ起こったのか特定できない。このテンスが指定されない事態を表す文に、「いう」が後続することで、述べられた事態が、「主語について、いつも起こっている」という習慣性を指定する用法があり、さらに非手指要素が変わると意外性を表すことから、「いう」は主語の性質を示す機能があると主張する。
日本手話単語/あく・あける/の意味地図
村越啓子(NPO 法人手話教師センター)
本研究では、日本手話の自他同形型自他交替の機序を明らかにするために、日本手話談話における日本手話単語 /開く/ の他動詞的用法を検証し、意味構造および構文構造のスキーマ統合プロセスおよび範疇化を整理した。その結果、/開く/ は実体CL スキーマと構文スキーマが拡張的範疇化されることにより他動詞的構文を表出されることが窺われた。
日本手話複合語[聾] [損] の合成構造の拡張記号図式に基づく記号論的分析
末森明夫(特定国立研究開発法人産業技術総合研究所)
日本手話には日本手話単語2 語[聾][損]の当て手話により「LAWSON 〈ローソン〉」を意味する表出が見られる。本稿では手話言語の記号論的分析のために、認知文字論の拡張記号図式(黒田2013、2015)を拡張し、意味空間・音韻空間・書記空間・手話空間の4 空間よりなる拡張記号図式を用意した。この図式を用い、音韻形態論・意味論・語用論・歴史社会言語学に立脚して、[聾][損]の合成構造の記号論的分析をおこなった。その結果、当て手話は当て字ないし判じ物と共通する特性を持つ傍ら、諸空間の重層性・複層性により喚起される意味拡張に変化が生じることが明らかになった。
「私」の存在と手話言語:心と身体との一体性を求めて
髙山 守(東京大学)
「私」が存在するということは、絶対に確実であると私たちは考えている。けれども、この絶対確実な「私」の存在が近年揺らいでいる。まずは哲学の領域においてだが、「心の哲学」と称される一連の議論において「私」つまり「心」が、全面的に脳(物)に解消されるという見方が支配的になっている。また、私たちの日常においても、「私」とはどこに存在するのかと問うてみると、たちまちその存在の不確実さに気づかさるという状況にある。しかし、いま手話言語に着目してみると、「私」の存在は、こうした不確実な揺らぎから解放されて、そもそもの絶対的な確実さへと立ち返ることができるように思われるのである。
日本手話言語の修辞的表現:日本語の修辞的表現と比較して感情を表す日本手話単語を分析する
川口聖(関西学院大学手話言語研究センター)
巷に溢れる日本手話辞書の多くには、手話単語一つ一つにその意味として日本語単語一つずつ、また逆の場合も同様に、対応しているかのように載せられているため、日本国内大学の言語学専門の先生たちも含めて多くの人に、日本手話言語は日本語から言語変化、あるいは派生化されてきた、コミュニケーション手段であると、重大な誤解を招いている。更に、厚生労働省委託の手話研究・普及等事業で、様々な日本語単語の一つ一つ対応するべく、ただ手話を知っているだけの特定の人によって、新しい手話単語としてどんどんつくられ、そして、それらを標準手話にして半強制的に普及させているため、日本手話言語の多義性や多様性が失われつつある。これまでの手話言語学研究に、自然言語としての日本手話言語があることを示すべく、テンス、アスペクト、モダリティなどで、手話言語の多義性や多様性について証明されてきた。そこで、日本手話言語の修辞的表現について、市田(2005)などが軽く触れられた位なので、ここで深く掘り下げていきたい。
ミャンマー手話のNMs:ミャンマー手話/食べる/のNMs を分析して
中山慎一郎(日本手話研究所)
本研究は、筆者が初めてミャンマー手話と接したときに、MS (1)は全く違うものの日本手話との類似点があると感じたことがきっかけになっている。世界中のネイティブサイナーの会話を注意深く観察すると、例外なくNMs(2)を駆使して会話していて、NMs が手話において重要な機能を担っていることがわかる。しかし、欧米の一部の国の手話を除き、日本も含めた各国の手話におけるNMs の役割や性質については十分に解明されているとはいえず、NMs の果たす機能について明確にする必要がある。
手話習得過程における補完的学習法の検討:手話学習者の手話プロソディの特徴
繁益陽介(筑波技術大学大学院情報アクセシビリティ専攻)大杉豊(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)