2021年2月2日 更新


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日本手話学会第40回大会

日程:2014年11月1・2日

場所:タワーホール船堀・小ホール

 

【基調講演】

Issues and future directions of Korean sign language studies 

Sang-Bae CHOI

 

【研究発表】

北朝鮮手話について

佐々木大介(成蹊大学)

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)で手話言語が使用されているといわれているが(北朝鮮手話),その実態についてはほとんど知られていない.本研究では,筆者が入手した『손말사전』(手話辞典)という北朝鮮手話の辞典に基づき,北朝鮮手話の語彙と韓国手話・日本手話の語彙を比較し,どの程度語彙の類似が観察されるかを研究した.その結果,3手話言語間の類似率は,歴史的な関係がない手話言語間の類似率に比べはるかに高く,韓国手話・北朝鮮手話間の結びつきが日本手話・北朝鮮手話間の結びつきよりも強固なものであることが示唆された.

 

絶滅言語としての「日本手話」に関する一考察:聾唖史学構築との相関を中心に

岡本洋(関東聾史研究会・大塚聾学校同窓会・筑波大学附属聾学校同窓会)

手話教育を守り続けた小西信八が東京聾唖学校長を退いて既に89年が経過した.爾来口話教育の支配により,実体の分裂,消滅,変貌が様々な問題を複雑にした.一昔に比して調査研究は増えつつあるが,手話生と口話生の間では大きな隔絶が存在し,そこに立脚した考究が遍くなされているとは言い難い.「聾唖」と「手話」.その物に対する概念や定義等の学術的検討による問題提起を目的とする.その過程に於いて教育史・社会史の手法等を披瀝し,知見蓄積と対照させつつ今後の調査研究上,明確かつ新たな指標となるような基準点を提供したい.

 

聾唖表象の解体における手話学的考察:逆進化的手法による日本手話複合語〈聾唖〉変遷経路及び分節素間相互作用の類推 

末森明夫

日本手話語彙体系の歴史言語学的考証にあたり,手話複合語〈聾唖〉の焦点化並びに逆進化的手法に基づく言語適応度景観の構築を図り,〈聾唖〉の変遷経路群及び変遷における分節素間相互作用の影響の可視化を試みた.〈唖〉並びに〈聾〉の意味論的優位性を考慮することにより,〈聾唖〉変遷経路群の多岐性並びに多岐化における利き手・非利き手の影響,〈聾〉の変遷における換喩事象を見いだした.

 

CLの定義および分類の検証・整理

中山慎一郎(日本手話研究所)

日本の聾者界においてClassifierの略語,「CL」という用語が普及してきたのはここ10数年のことであるが,身振りと見まがうばかりの表現をCLとする,文であるのにCLとするなどのCLという語の一人歩き,そして,CLの定義およびCLの分類に混乱が見られる.ここでは,CLという用語を使っている主な文献からCLの定義や分類を抽出することによりCLという用語が使われてきた経過を検証すると共に,CLの定義の再確認および分類の整理を試みた.

 

器具CLの表現傾向調査:器具CL表現の聾者・聴者表現の対比調査を通して

山岸千華・小林大輔・坂内常子(城東ゼミ第1期生3グループメンバー)・岩田美佐子(手話通訳者)・加藤裕子(手話通訳者)

城東地区聴覚障害者団体懇談会手話研究所ゼミ(以下城東ゼミ)の第1期生第3グループは,スパラ(1986)の類辞の種類の中から「器具類辞(CL)以下,器具CL」を取り上げ,分析した.以下,第3グループ(以下3G)の調査方法及び分析結果を述べる.

 

日本手話の数詞のバリエーションについて:関東地方と近畿地方の数詞「10」,「100」,「1000」に焦点を当てて

相良啓子(国立民族学博物館)

本研究では,日本手話の数詞「10」,「100」,「1000」にみられる各二種類の変種に焦点を当て,関東地方と近畿地方でどちらの表現がどのように使用されているのか,またその現象にはどのような社会的要因が影響しているのかについて,37 名の手話データを基に社会言語学研究としての一考を述べる.また,それらの表現が,同じくJSL ファミリーに属するとされている(Fischer& Gong, 2011)台湾手話と韓国手話では,どのような分布がみられるのかについても,今後の歴史言語学的研究への手がかりとなるものとして一例を紹介する.

 

日本手話における数詞編入の制約

池田ますみ(香港中文大学・手話言語及びろう者学研究センター)

研究テーマとして「数詞」を取り上げ,昨年は「数詞」のベースを中心とした各国の手話(日本手話,香港手話,アイルランド手話,インドネシア:ジャカルタ手話,スリランカ手話)を分析した.今回は「数詞編入の制約」にスポットをあてて,分析と考察を行う.

 

手話言語の語彙共有現象を記述・分析するにあたって

大杉豊(筑波技術大学)・坊農真弓(国立情報学研究所)・金子真美(筑波技術大学)・岡田智裕(国立情報学研究所)

日本のろう者コミュニティにおいて手話言語の語彙はどのように共有されているのであろうか.本発表では,「日本手話話し言葉コーパス」の語彙データを「共有」の観点で分析する中で,語彙レベルの一貫性を見るだけでなく,内部構造のレベルにおける一貫性にも着目する方法が,手話言語語彙の共有現象の記述・分析に有効であることを見いだしたことを報告する.あわせて,話者が表現に要する時間の測定数値が「共有度」の検証に意味を持つ可能性を指摘する.

 

借用口型「これ」における指示詞派生文末詞的用法

黒田栄光(日本手話教師センター・寺子屋手話)・原千夏(日本手話教師センター・SoftBank手話教室)・末森明夫

日本手話には日本語指示詞「これ」より派生し,指差に共起する借用口型「これ」が散見される.該当事例の語用論ないし意味論的検証を行うと共に,ベトナム語指示詞派生文末詞との対照を行うことにより,指差に共起する借用口型 「これ」は指示詞派生文末詞的機能を強く帯びたものであり,文脈に応じ様相性的機能ないし接続詞的機能を含意する可能性を見出した.この事例は手話言語体系における借用口型の語彙化及び文法化に関する見解(Sandler 2009)に与するものと考えられる.

 

手話口型「ん」の様相性に関する内政に基づいた予備的考察

原千夏(日本手話教師センター・SoftBank手話教室)・黒田栄光(日本手話教師センター・寺子屋手話)・末森明夫

談話における非手指動作の文末詞的用法に際し,目要素及び口要素における含意の分布に関する予備的考察を行った.4種類の目要素及び5種類の口型要素を汲焦ることに得られるそれぞれの表出に関する容認度,情報確認に関する含意,及び話者の判断に関する含意について内省的考察を行うことにより,目要素による含意と口型要素に関する含意の関係を見いだすと共に,相手を見据える目の動きないし口を閉じたまま一文字にするわけでもない口の形に相手に対する敬意が含意される可能性を見いだした.

 

日本手話<含む>の項構造と情報構造

下城史江・西佳子(NPO法人手話教師センター)

日本手話の語彙<含む>(片手、手型B)は,「新しいビルが建った」「道路が新しくできた」など,主に無生物(物)の出現を表すが,人や有生物を対象とする場合など同じ文型でも許容度が異なる場合が観察される.本発表では,この<含む>がどのような場合に使用できるか,どのような表現を追加すると許容度が上がるか,その原因は何かを探り,この語彙の特異性が,(1) <含む>は場所を表す外項と対象を表す内項をとる二項述語である,(2) 内項の出現が新情報であることを保証するような旧情報が必要であるという 2つの仮説から導けることを示す.

 

日本手話における「話題化」

磯部大吾(香港中文大学)(概要なし)

 

日本手話の文末指さしに関する一考察:aboutness topicを含む文における文末指さしを中心に

原大介(豊田工業大学)・小林ゆきの(筑波技術大学)・内堀朝子(日本大学)

本研究では,主語または話題を指すとされてきた日本手話の文末指さしについて,従来観察されてこなかった aboutness topic を含む文を加えて考察した.第一に aboutness topic 文のうち文末指さしが話題を指せるのは,いわゆる所有者上昇構文においてのみであった.第二に,その場合文末指さしは主語を指せず,一方,所有者上昇構文ではないaboutness topic 文では主語を指せた.従って,文末指さしの対象は,主語または話題化された要素とは一般化できず,より詳細な条件が必要であることが分かった.

 

音楽的要素を取り入れた手話ポエムと言語習得との関わり:手話コーナの実戦からNMMについて考える

赤堀仁美(学校法人 明晴学園)

2008 年にバイリンガルろう教育を実践する学校として開校した明晴学園では,幼稚部から中学部まで,日本手話が第一言語となる環境を保証し,経験したことや考えたことなどを自分なりに手話で表現し,相手の話す手話を聞こうとする意欲や態度を育て,手話に対する感覚や手話で表現する力を養うことを目標としている.幼稚部では音楽的な要素を手話表現に取り入れ,日本手話の文法を的確に使って手話ポエムを作ろうとする姿勢がみられるようになってきたので,その実践について報告していきたい.