2021年2月2日 更新
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日本手話学会第39回大会
日程:2013年10月26・27日
場所:鈴鹿医療科学大学・千代崎キャンパス
【TISLR 11報告】
稿者は,2013年7月10日から13日の4日間,イギリスのロンドン大学(University College London)で開催されたTISLR 11に参加した.本稿は,その大会の通訳に関し,見たものや感じたことを論述する.
【研究発表】
フィリピン手話法とその直面する壁:政治と教育に翻弄されるフィリピン手話(FSL)
森壮也(JETRO アジア経済研究所開発研究センター)
フィリピン手話(FSL)は,フィリピンに居住するろう者の言語である(PDRC and PFD 2004).同国では,2012年下院に始めて手話言語法が提出され,下院で可決された.上院で審議が始まったが,2013年5月の上院中間選の時期に入ってしまったため,残念ながら廃案となってしまった.しかしながら,同法案は,アジア初の手話言語法となる可能性もあった.その法案を巡る様々な関係者の間での議論や手話法のあり方などは,手話の社会言語学という側面はもちろんのこと,日本でも議論されている手話言語法との関係からも非常に興味深いものがある.本報告では,同法の背景にあるフィリピンのろう教育の状況やろう社会における手話使用の状況も踏まえて,フィリピンの状況から得られる示唆について論じる.
イタリアのバイリンガリズム(リベンジ編):ろうの卒業生・教員らへのインタビュー調査と日仏伊三カ国比較の試み
小谷眞男(お茶の水女子大学)
イタリアの普通学校における,ろう児と聴児が共に在籍するクラスでの,イタリア手話(LIS)とイタリア語のふたつの教室言語が交錯する相互作用的なバイリンガル統合教育実践例の報告(第36回,第37回大会報告の続き.リベンジ編).報告者は,2012年11月に現地校のひとつを日本人ろう者らと再訪し,幼・小・中のバイリンガル・クラス(通常科目),LISのクラス,およびろう児だけを対象とする「スーパーLIS」クラス等を見学した.そして,この仕組みのもとで学校生活を送ったろうの卒業生5名,及び同学校に勤務する現職のろう教員2名らにインタビュー調査をおこなった.さらに,2013年9月にフランスにおけるバイリンガル教育実践項を参照事例として訪問予定である.以上の調査結果について,授業風景等を交えつつ紹介し,分離/共生の軸と同化/異化の軸を組み合わせた理念型図式に日仏伊三ヶ国におけるそれぞれ異なるろう児教育の転回と現状をプロットし,比較・評価・展望を試みる.
手話言語の二次元投影におけるἀπορɛία:日本の絵画及び写真における手話の描写に関する考察
末森明夫・新谷(近畿聾史研究グループ)・高橋和夫(日本聾史学会)
筆者等は日本の中近世より近代初期に渡る非文字史料に見られる手話描写事例の類推的ないし実証的輯録を図り,三次元事象に属する手話言語の二次元投影という表象過程における言語学ないし図像学・表象学的考察を行った.手話言語の二次元投影に伴う言語的要素の欠失及び寓意の表出に象徴される手話と聾唖の文脈的類縁関係の整理及を図った.
日本手話の文末の指さしが指し示すものは何か
原大介(豊田工業大学)・黒坂美智代(藤田保健衛生大学)
日本手話の文末に現れる指さしは,当該の文の主語を指し示す代名詞であるという考えが日本手話学の通説となっている.しかし,実際には文末の指さしが主語以外の名詞句を指示するケースが散見される.文の主語以外が指示されるケースがどのようなケースであるかを検討する.
日本語—日本手話バイリンガル児のモダリティーと手話のタイプ
平英司(関西学院大学)
本研究は,手話環境で育った聴児K(3歳11か月)の言語仕様を分析したものである.具体的には,Kが音声付き手話から音声を消した際の手話表現の変化を,語順をもとにみていく.結果,音声を消そうとする行為が手話のタイプにも影響することが示唆された.
日本手話における動詞連続構文
市田泰弘(国立リハビリテーションセンター/国立民族学博物館)
世界中の多くの言語と同様,日本手話には同市連続構文が存在し,その表す領域は移動事象に限定されない.語彙概念構造による分析に従えば,その基本構造は「活動局面を表す他動詞」+「過程局面と状態・位置局面を表す自動詞」であり,「様態」+「経路」を表す移動の同志連続構文もその基本構造は同じである.また,その観点によれば,身体部位を表す二重同士構文も同志連続構文の一種であるとみなすことができる.
「日本手話話し言葉コーパス」の可能性:語彙化代のデータを分析する
岡田智裕(筑波技術大学)・大杉豊(筑波技術大学)・坊農真弓(国立情報学研究所)・菊地浩平(国立情報学研究所)
本年5月より「日本手話話し言葉コーパス」が公開されている.本発表ではこのコーパスを利用した手話語彙データの分析例を紹介し,同コーパスの言語資源としての存在意義を確認するとともに,今後に向けての課題を探ることを目的とする.
いわゆる「中間型手話」の中間性の検証:中間型手話使用者の用いるCL手型から見えてくるもの
黒坂美智代(藤田保健衛生大学)・原大介(豊田工業大学)
CL手型のタイプの選択には,媒介手話H,日本手話,一般聴者の手指表現(身振り)における物品への焦点の当て方の違いが反映されており,この違いは媒介手話Hが独自の体系を持つ可能性を示唆している.
手話空間における数詞の移動と場面パターン:話者との関係をめぐって
原千夏(NPO法人手話教師センター)
手話空間における数詞の移動には,位置固定のほかに縦,横,斜めへの移動がある.先行研究(原2013)で日本手話第一言語話者の大半が場面に応じて数詞の移動の使い分けがあると報告した.本発表は,これをもとに同場面における複数パターンと話者との関係について分析を行う.
日本手話における形態論:数詞
池田ますみ(香港中文大学:APSL)・磯部大吾(香港中文大学:APSL)
日本手話における「数詞」のシステムを,手型の構造や手の向きを基準として記述する.また,その記述を基に,他の手話言語の(スリランカ手話,インドネシア手話,香港手話など)数詞と比較する.