2021年2月2日 更新
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日本手話学会第37回大会
日程:2011年10月15・16日
場所:関西学院大学西宮上ヶ原キャンパス
【研究発表】
サイン・バイリンガリズムの可能性について
植田麻美(東京工科大学)
ろう児の言語習得のアプローチの1つにサイン・バイリンガリズムがある.これは手話のみで母語の習得を目指すものである.本発表では,サイン・バイリンガリズムのアプローチをとる東京特区指定の明晴学園の例から,その可能性について,学習者である,ろう児の動機づけとの関係から考察を試みる.
イタリアのバイリンガリズム:コッサート小学校の調査から
小谷眞男(お茶の水女子大学)
統合教育の理念が支配的なイタリアでは,すべてのろう学校が閉鎖された.その結果,理念とは裏腹に,ろう児が教室のなかでただ一人置いてきぼりにされている,などの批判も聞かれる.この指摘を一概に否定はできないが,逆に統合教育の利点を活かして双方向的なバイリンガル教育に取組んでいる学校も,少数ながらある.例えばイタリア北東部ピエモンテ州コッサート市の市立小学校では,ろう児・聴児統合教育の場で,イタリア語とイタリア手話(LIS)の二つの言語が,ほぼ対等の教室言語として用いられている.その結果,ろう児はもちろん聴児までもがLIS を自由に使いこなすにいたり,子どもたち全員がLIS とイタリア 語を使ってコミュニケートしあうという希有な情景が生まれている.2011 年 3 月に実施した現地調査の結果を録画で紹介しつつ,この実践例の持つ含意について検討する.
難聴児の手話学習-小学校難聴学級における日本手話指導の取組み
鳥越隆士(兵庫教育大学)・前川和美(関西学院大学)
通常の学校に在籍する難聴児に対して,継続して手話指導を行っている。本論文では,特に,難聴児に対する手話指導のあり方について,社会・文化的な視点から検討するものである.具体的には,難聴児たちが初期の手話学習場面で,日本手話という言語に対してどのように振る舞い,また講師である日本手話話者に対してどのように関わっていたのかを明らかにする.これをもとに,今後の難聴児の手話指導のあり方について考えたい.
バイモーダル児のモダリティー使用に関するケーススタディー
平英司(関西学院大学)
本研究は,日本手話-日本語のバイリンガル・バイモーダル環境にある家庭(ろう児を日本手話で養育している聴親家庭=Sign Language Family :SLF)のろう児のきょうだいである聴児による母親へのモダリティー使用(1音声2手指3音声・手指併用)について量的に分析を試みたものである.
手話会話分析のための文字化資料作成手法の提案
菊地浩平・砂田武志・坊農真弓(国立情報学研究所)
会話は複数の話し手の発話が連鎖することで構成される相互行為である.会話分析研究は,会話の中で起こる様々な現象をとらえ,その秩序を明らかにすることを目的としている.この目的を達成するために会話分析研究では,参与者の振る舞いを発話の重複や沈黙等を含め,極めて微細なレベルで書き起こした文字化資料が作成される.本発表では従来の手話記述手法の特性および課題を検討することから,動作レベルでの文字化資料作成を提案する.
日本語対応手話擁護論:自然言語としての日本語対応手話
神田和幸(中京大学)
専門家の間では日本手話以外の手話が存在することは知られている.しかし,実態が解明されることはなく,自然言語でないかのように喧伝され,偏見の対象となっている.かつての日本手話がそうであったように,力のない人々の使用する手話変種に対し,社会言語学的な考察を加え,その歴史と将来の展望について述べる.
いわゆる「中間型手話」の中間性の検証~語表出の特徴について
原大介(豊田工業大学)・黒坂美智代(藤田保健衛生大学)
聴者の使ういわゆる「中間型手話」(以下,媒介手話H)の語表出に焦点を絞り,語表出において媒介手話Hに日本手話と日本語(または日本語対応手話)の文法的特徴の混合が見られるかどうかを検証した.その結果,媒介手話Hの語表出のレベルにおいても両言語の混合はほぼ見られないことが確認された.
同源語二進系列および最尤法による手話言語系統樹の作成
末森明夫
語彙統計論に立脚した先行研究論文(2 例)記載資料に基づき,同源語二進系列の作成および最尤法の利用を図ることにより,手話言語を操作的分類単位とする分岐図(系統樹)群を得た(分岐図群 I の操作的分類単位:英国手話系統手話言語群,分岐図群IIの操作的分類単位 :タイ手話方言群およびベトナム手話方言群).同源語二進系列の作成における諸要因(基礎語彙目録における名詞群,基礎語彙目録と無為抽出語彙目録の相違など)を検討し,手話言語系統樹の作成における諸課題の考察を行った.
ケニア手話(KSL)文の基本構造
森壮也(日本貿易振興機構アジア経済研究所) ・宮本律子(秋田大学)・ Nickson Kakiri(ケニアろう者協会)
論者たちは,第 36 回大会にてケニア手話(KSL)のプロジェクトの概要と先行研究,また2010年度に実施した現地ワークショップで得られた知見の一部を紹介した(森・宮本・ニクソン,2010).これを承けて,2011年度に実施した現地ワークショップで収集されたKSLデータから,KSLの基本文法について,ASLとは異なる構造がかなり具体的な形で見えて来ており,統語論的な観点からこれを報告する.
高校の手話教育におけるナチュラル・アプローチの導入とその改善
村野光則(お茶の水女子大学附属高校)
本校では,7年前より高校2年次の「総合的な学習の時間」において「初級手話講座」を開設している.年間授業数は26−7回で1回45分である.本年度の受講者は12名(定員)である.当初は,ろう学校での勤務経験がある村野が講座を担当していたが,昨年度より本学の附属幼稚園の保護者で,ソフトバンクの「ナチュラル・アプローチ手話教授法講座」を修了したろうの女性に年間を通じて指導してもらっている.本報告では,その授業実践をもとに入門期における手話教育のあり方について考察する.