2021年2月2日 更新
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日本手話学会第25回大会
日程:1999年7月10・11日
場所:国立妙高少年自然の家
【研究発表】
手話表記法を活用した手話辞典のプロトタイプ提案
宮下昭宣・吹野昌幸(Dプロ)
現在,世界中で手話表記法を活用した手話辞典が刊行されているものの,日本では,手話表記法を活用した手話辞典は未だ刊行されていない.世界中でいくつかの手話表記法がある.どれが良いかと検討した.その結果,ドイツのハンブルク大学のドイツ手話センターで開発されたハムノーシスという手話表記法を採用した.そのハムノーシスは<手型><手の方向><位置><動作><非手指記号>の5つの部門に分けて記述を可能にしている.それに基づいて,日本の現実に即した手話辞典プロトタイプ案を作成し,提案する.
音節の適格性に関する一考察:complexity-based approach
原大介(シカゴ大学)
音節を構成している複数の要素を統一的な基準に基づいて数値化する必要がある.また,その基準は客観性の高いものでなければならない.ここでは,情報理論の情報という概念を用いて,音節の適格性を論じる際には不可欠となる.音節構成要素の数値化について考察する.
日本手話のデータから見たH1概念の再検討
森壮也(アジア経済研究所・全日本ろうあ連盟日本手話研究所)
Battison(1974)以来の手話音韻論ではH1(利き手,Dominant Hand)という概念が重要な部分を構成してきている.これまで,日本手話の研究でも同じような考え方が適用されてきているが,この際に研究者の側でASLの知識がまだ十分でなかったためもあって,両手話の間での言語的特性の差があまり省みられてこなかった傾向がある.しかしながら,ASLを日常使用している米国のコミュニティ(必ずしもネイティブ・サイナーにこだわる必要はない)との接触が増えてきた現在,いくつか日本の手話についてこれはどうもASLとは少し違うようだという形で指摘を受ける特徴がいくつかある.そうした中から,今回は利き手交代(Hand Swithing, Battison 1974)の現象に注目してみたい.そうした観点から日本手話の語をよく見てみると,本報告であるH1概念がそのまま当てはまらないものがASL以上に大きい.そうした日本手話の語彙の例を手がかりに両言語の言語的特性の違いと,H1のとらえ方の再検討を試みる.
頭のうなずきや顔の表情による日本手話の表現の詳細な分析
赤堀仁美・乗富和子・福田友美子・木村晴美・鈴木和子・津山美奈子・市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
多頻度使用単語が用いられている文を例にとって,頭の動きや顔の表情が日本手話の言語表現にどのように関係しているか調べた.その結果,次のことがわかった.
① 疑問や同意を求める文・逆接や理由の接続などを表現するには,頭の動かし方が重要であり,それぞれの内容に対応した表現方法が存在しているようである.
② 単語表現に表情や口形が付加することで,その単語が本来持っている意味を限定しているようである.
③ 日本手話には,手指・顔・頭などの複数の調音器官があり,別の調音器官によって,同時に2単語が表現されることがある.
性について:/就く/,/降りる/(試論)
宮本一郎(Dプロ)
欧州諸言語には,男性名詞/女性名し,あるいは,通性名詞/中性名詞などの,名詞の性があることが知られている.例えば,天然/自然や文法上などの区別によって男性名詞/女性名詞と分け,形容詞と指示詞も男性形/女性形と分けている言語(フランス語など)や,かって存在した男性名詞/女性名詞/中性名詞が,現在,ほとんど通性/中性隣,定冠詞や指示形容詞の通性/中性がある言語(オランダ語)などがある.今回は,ろう者間に交わされているコミュニケーション現状を踏まえて,日本手話で表現される「性」について,考察する.
地名表現:/新潟/考
佐藤聖(社団法人新潟県聴覚障害者協会)
1969年(昭和44年)に財団法人全日本ろうあ連盟から「わたしたちの手話」が出版された.その出版以来,早いもので30年目を迎える.現在,全国レベルの会議・集会・手話ニュースなどで,標準手話として用いられたり,ろう者間の会話に取り入れられたり,様々な展開を見せているのが現状である.地名表現「/新潟/」について調査を行ったことを報告する.
聾者間の対話の日本手話での単語の用法に関する研究
乗富和子・赤堀仁美・福田友美子・木村晴美・鈴木和子・津山美奈子・市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
2人の聾者の30分にわたる日本手話による対話で,高頻度に使われている基本単語20種を選定し,対話中で使用されているすべての例について,単語の用法を次の観点から分析した.① 各単語に対応する語義の多様性 ② 各単語の単語熊田は文中での非手指表現(口形の付加・顔の表情・目の開閉・頭の動きなど)その分析の結果,次のことがわかった. ① 対応する日本語の本来の語義に加えて,異なる語義を持っているものが多かった.② 単語単語区で表現される場合でも,非手指表現を伴うものがかなりあった.③ 同じ手指動作で表現される単語に,異なった口形を付加することによって,その意味が異なってくる場合が多くあった.④ 手指動作によってある単語が表現されるのと同時に,非手指動作によって別の単語が表現されることもかなり多く観察された.
日本手話一致動詞パラダイムの再検討:「順向・反転」「4人称」導入からみえてくるもの
市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
コードスイッチング分析の試み
大杉豊(ロチェスター大学)
本研究(予備的研究)では二つの異なる手話言語話者(日本手話とアメリカ手話)の談話を対象として,コードスイッチングのパターンを分析した.その結果,音声言語話者のコードスイッチングと共通する点が多いことが確認された.その一方,音声言語に見られないものとして,移動・存在動詞構文がコードスイッチングを促す一つの環境であることが見い出された.それにより,日本手話とアメリカ手話が移動・存在動詞構文において極めて似た機能と構造を持つことが改めて示唆された.
日本手話のモーラ,日本語のモーラと比較して
堀米泰晴(Dプロ)・棚田茂(日本大学大学院)
日本国内では,手話辞典の開発にあたり,手話単語の造語活動が盛んである.スポーツ用語,コンピュータ用語,建築用語など分野は様々であるが,一般のろう者に受け入れられるものとそうでないものがある.これらの差異には,音韻的問題,メタファー的問題などが挙げられる.今回は音韻的問題を持つ単語に焦点を当ててみた.造語の元になった言語(日本語)から手話単語を造語する過程で問題が発生しているものに言語(日本語)のモーラが影響していることが分かった.一方,日本手話は一単語に対し2モーラであることが観察されている.例えば,日本語のモーラが5個の場合,造語過程で日本手話のモーラが3個になる.一般的に日本手話単語のモーラが2個であることと比較すると「3個」は矛盾する.矛盾を起こした造語された手話の多くは,音韻変化が起こる.日本手話は2モーラで構成されていることを確認したので報告する.
日本手話と北米先住民諸語の類型論敵対照研究
箕浦信勝(東京外国語大学)
本発表では日本手話の様々な類型的特徴を,主に北アメリカの諸言語と対照させながら概観する.その北アメリカの諸言語も,もとより系統的,類型的多様性たるや絢爛たるものがあり,決して一枚岩ではない.然し乍ら,日本手話の類型的諸特徴,すなわち,主要部標示,名詞と動詞の不峻別,順向・反転,類別詞,名詞抱合,語彙的接辞,重複法,音象徴と擬声語,整合性概観することによって,日本手話が,(音声)日本語よりは,新大陸・北アメリカの諸言語と多くの類型的特徴を共有することを見ていこうと思う.
スリランカ手話におけるネームサインの命名行為
加納満(長岡技術科学大学)
本研究の目的は,スリランカ手話を対象にネームサインの命名に関わる諸要素をもとに命名行為がどのように組織化されているのかを探ることである.その結果,聾者が他者をどのように認識し,命名行為過程に組み込んでいるかが一部明らかになった.
日本手話における「しゃれ」について
広川毅(千葉県聴覚障害者連盟)・森壮也(全日本ろうあ連盟日本手話研究所)
日本手話の中には/シ/ /ャ/ /レ/と指文字で表現されるものが存在する.しかしそれは(音声)日本語で「しゃれ」と言われているものと若干異なる意味で使われている.それがどのようなものなのであるのか,またこの手話での/シ/ /ャ/ /レ/に入らないものとしてどんな語があるのかを探ってみた.江口福(1990)でも述べられているように「言葉遊びには,むろん,その言語的好みがうまく反映されており,したがって言葉遊びの理解は,各言語とその言語文化の把握に関わってくる.」こうしたことを念頭に置いて考えてみると,日本語からの借用という意味では一見,同じように見えるこうした「ことば遊び」の中には手話として受け入れられているものとそうではないものがあることが分かった.またその区別は,手話のなりたちが通常思われているよりもはるかに複雑な複線的ななりたち方をしている可能性があることが示唆された.これらの事実からろう者にとっての日本語は単に外国語であるとして外部的なものとするのには疑問符がつけられねばならないことも明らかになった.
手話通訳作業に関する心理言語学的分析
白澤麻弓(筑波大学大学院)
通訳とは,ある言語(sL:source language. 起点言語)における考えや概念を,他の言語(tL:target language. 目標言語)に変換する作業で,sLおよびtLに音声または手話を用いる形態のことを指す(Brislin, 1976).このうちsLまたはtLに手話を用いる手話通訳については,その通訳過程に焦点をあてた研究は少なく,必要と荒れる作業内容については明らかにされていない.本稿では,音声同時通訳研究における知見を元に,日本語から手話への通訳作業について,訳出情報量,訳出時間,変換作業,訳出表現の4つの側面から分析することで,手話通訳作業の評価・記述を試み,これを通して手話通訳に必要とされる作業内容について考察する.
手話詩の試論:メタファー
宮本一郎(Dプロ)
米国では,Ella Mae Lents女史(ASL講師,ASL詩人),Clayton Valli博士(ASL詩)らが,ASL詩創作活動・発表が続けておられる.彼らのASL詩が,米国ろう者自身の「ろう者」として,又,「第一言語:ASL」話者としてのアイデンティティに大きく影響を与えていることも事実である.また,「ろう文化」「第一言語:ASL」の主張,及び,(米国の)聴者多数派から成る社会の中における少数派と位置付ける,社会運動が活発となったのは1980年代からであり,ASL詩の創作発表もその時期から活発になっている.地球規模で眺めると民族蜂起や独立運動などと共に歩んで来たという歴史的事実が多くあり,この活発化事情は偶然なる出来事ではなかろう.現在,彼ら,ASL詩人の手話詩には,口頭自由詩や象徴詩もあれば,音数律・音韻律に基づいたものもあれば,様々な創作を試みて,発表されている.特に,Clayton Valli博士は,詩的直喩を用いた手話詩,或いは,象徴的な手話詩の創作が,もっとも得意としている.今回は,ポジティブ/ネガティブの詩的直喩を用いて,手話詩創作を試み,日本手話の手話詩の可能性を述べる.
指文字学習支援システムの研究
田畑慶人・黒田知宏・千原國広(奈良先端科学技術大学院大学)
手話の自習型学習は,学習者の好きなとき学習できる反面,学習した手話動作の正誤確認ができないという問題がある.そこで本報告では,学習者が提示した手話を評価し,他あしい手話への修正方向をビジュアルにフィードバックする学習支援システムを提案する.本システムにおいては,視覚的な正解を適切に認識することが重要である.そこで,本報告では入力データを記号列に書き下すことで,提示手話の曖昧性を吸収する手法を提案し,提案手法の評価を行ったのでこれについて述べる.
手話コミュニケーションにおける視覚的メタファの効果とその評価
佐藤昌一・松永哲也・和田充雄(北海道大学大学院)
手話コミュニケーションのためのコンピュータを介したインタフェースとして,アバター型(人型ロボット)が重要となってきている.その研究課題には,手話の動き認識,データベース化,アニメーション精製などの様々なものがある.本研究では,コンピュータからユーザに伝える画面インタフェースとしての立場から,インタフェースに視覚的メタファを取り入れた.アバター型のプロトタイプを製作した.ろう者,健聴者両方の被験者に対し評価実験を行い,その効果すなわち,見やすさや,わかりやすさなどについて考察した.手話で話し,手話で考えるろう者にとって,本当によいものになり得るだろうか,という問いに対し,手話インタフェースの新たな一つの方向性を見出したので,ここに報告する.
ネパール聾事情
寺井泰子(青森県八戸市城下小学校)
青年海外協力隊員(平成9年4月〜平成11年4月派遣)としての活動を通して見えたネパールの聾事情(学校教育の現状,手話の社会的認知度,聾者を取り巻く社会など)について報告する.
「二重のマイノリティ」としてのアフリカろう者社会
亀井信孝(京都大学大学院)
アフリカの各地にはろう者社会が存在しているが,先行研究や報道においてその実態を知る機会は少ない.結果として,アフリカのろう者社会について関心を持つ機会もなく,さらに語られにくくなるという悪循環がある.本報告では,まず文献の分析から,その認識的不均衡について論じる.ついで,アフリカ各地のろう者社会に関するさまざまなトピックを紹介し,いま研究として何が求められているのかを示唆する.最後に,アフリカのろう者社会の現状を「二重のマイノリティ」として捉える枠組みを示し,今後の課題について展望を述べる.
手話による立体表現の発達モデルに関する検討
中野聡子(筑波大学大学院)・吉野公喜・金澤貴之(筑波大学)
手を使ってさまざまな物の形や大きさを3次元空間上に表現するためには,複雑な空間的操作や空間的攻勢が行われなければならない.本研究では,手話導入を積極的に行なっている聾学校幼稚部に在籍する聾幼児と,同年齢の聴幼児および聾成人を対象に,15種類の3次元物体の描画表現・手話理解と表現の課題を行い,幼児特有の空間構成の特徴とそこに見られる手話の使用について検討する.
手話表現能力評価尺度作成の試み
長南浩人(神奈川県立平塚ろう学校)
本研究は,手話表現能力の評価尺度を作成することを目的としたものである.予備調査では,評定者が7人の聴覚障害者の手話表現を順位づけをすることと,その理由を自由記述することが求められた.その結果,評定者間で順位づけは一致していた.また,自由記述から17項目からなる仮尺度を作成した.研究では,この尺度の信頼性と妥当性を検討した.因子分析の結果,本尺度の1次元性が認められた.また信頼性も高く,併存的妥当性も検証された.
手話を学習する上でエラーの多かった単語の音韻的特徴
池田亜希子・木村晴美・竹内かおり・福田友美子・市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
学習者の手話文におけるうなずきのエラー分析
竹内かおり・木村晴美・池田亜希子・福田友美子・市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)